診療内容
主に以下の疾患について取り扱っています。
膀胱がん診断と治療
膀胱は、下腹部に位置し、腎臓で作られた尿をためる臓器です。膀胱の内側にある、尿路上皮と呼ばれる粘膜から発生した悪性腫瘍のことを、膀胱がんといいます。年間、人口10万人あたり約17人が膀胱がんになると報告されており、年齢とともに発生リスクが高くなります。男性に多い癌です(男性:女性=3:1程度)。発生のリスクファクターとして、喫煙、化学物質(4-アミノビフェニル、ベンジジン、2-ナフチラミン、シクロフォスファミド等)、尿路感染(ビルハルツ住血吸虫)などが知られており、特に喫煙により5-8倍のリスクになると考えられています。
症状は無症候性肉眼的血尿と言われ、目で見てわかる血尿が出るものの、痛みを伴わないことが特徴です。診断のためには尿道から内視鏡を挿入する膀胱鏡検査を行います。
膀胱癌は非筋層浸潤癌と筋層浸潤癌に分類され、非筋層浸潤癌が全体の70-80%を占めます。非筋層浸潤癌と筋層浸潤癌では治療方針が大きく異なります。
この診断はCTやMRIなどの画像検査を行いますが、筋層浸潤の有無の判断は画像では難しい場合もあり、診断かつ治療も兼ねて経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)を行います。
膀胱がんの進行具合を病期(ステージ)で分類し、治療方法を決定します。具体的には、膀胱鏡の所見、CT、MRI、PETなどの画像所見により、T(膀胱でのがんの深さ)、N(リンパ節転移の有無)、M(肺、肝臓、骨などの遠隔転移の有無)の三つの要素を判断し、病期を決定します。
Tステージである膀胱がんの深達度(病巣の深さ)は、経尿道的膀胱腫瘍切除術(別項参照)の病理結果により、上皮内癌(CIS)、Ta、T1、T2、T3、T4と分類されます(図)。そして、がんが粘膜から粘膜下層にとどまっているCIS、Ta、T1を「表在性がん」、筋層に及んでいるT2以上を「浸潤性がん」に大きく二分し、治療法が検討されます(図)。
筋層非浸潤性膀胱癌の治療
- 経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)とは
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膀胱鏡(内視鏡)を用いて行う手術で、ループ型の電気メスを用いて膀胱内の腫瘍を切除します。内視鏡で手術を行うため腹部を切り開く必要はなく、比較的、身体の負担が少ない手術と言えます。
この際、光線力学診断(PDD)を用いたTURBTを行うことで、よりレベルの高い手術が可能となっています。(参照)
術後、抗癌剤やBCG膀胱内注入療法、2nd-TUR(もう一度TUR-BTを行うこと)、膀胱全摘が必要になることがあります。
膀胱腫瘍は再発率が高く、追加治療の必要がなくても定期的に内視鏡検査を行う必要があります。 - TURBTの合併症
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- 出血
血尿膀胱粘膜を切除するためほとんどの症例で術後、尿に血が混じります。まれに再出血のために麻酔下の止血術が必要になることがあります。 - 膀胱穿孔
手術によって膀胱に穴があいてしまうことがあり、膀胱穿孔と言います。膀胱粘膜が非常に薄い場合や、腫瘍が深く浸潤している症例に起こることがあります。ほとんどの場合尿道カテーテルをしばらく留置することで自然に閉じます。
- 出血
筋層浸潤性膀胱癌の治療
筋層浸潤性膀胱癌の治療の目標は「癌の根治を目指しながら、より良いQOL(生活の質)で人生を送っていただくこと」です。
筋層浸潤性膀胱癌に対する最も根治性の高い標準治療は術前化学療法+膀胱全摘除術(±術後免疫療法)です。
全摘が必要と判断されれば、尿の通り道をつくる尿路変更術が必要になるますが、従来からの回腸導管(尿路ストーマ)に加え、条件を満たせば積極的に新膀胱を作成し、自排尿を可能にします。術前化学療法の詳細は膀胱がんの化学療法の項目をご参照ください。
腫瘍の数が単発で、それほどサイズが大きくない、画像検査で膀胱壁外浸潤を認めない等の条件を満たす場合、化学療法+放射線療法による膀胱温存療法も行っています。
膀胱全摘除術
- 膀胱全摘除術の適応は
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- 浸潤性がんの場合
血尿膀胱粘膜を切除するためほとんどの症例で術後、尿に血が混じります。まれに再出血のために麻酔下の止血術が必要になることがあります。 - 表在性であっても、悪性度が非常に高いがん、再発を繰り返すうちに悪性度や深達度が上昇するタイプ、BCG膀胱内注入治療に反応しない上皮内がんの場合 です。
- 浸潤性がんの場合
病理組織検査の結果、浸潤性がんと判定された場合は、内視鏡的切除術では切除しきれず、がん細胞を取り残していることになります。肺や骨、肝臓などに遠隔転移がない場合は、膀胱を全摘出する、膀胱全摘術が標準的治療法となります。その場合、膀胱周辺のリンパ組織も切除します。また、尿を体外に出す尿路変向術(次項参照)も併せて行われます。 男性なら膀胱・前立腺、女性なら膀胱・子宮を一塊に摘出するのが標準術式です。
膀胱全摘術は膀胱摘出・リンパ節郭清・尿路変更の3部構成であり、手術は長時間かかります。そのため、周術期の腸閉塞や感染症といった合併症が多いのですが、手術症例の多い施設では合併症率が低いと報告されています。
尿路変更(向)
膀胱を取り出してしまうと、腎臓で作られた尿を体の外に出す新しい出口や新しい膀胱を作成しなくてはなりません。尿の通り道を変えることを尿路変更(向)と言います。
現在当院で行っている尿路変更(向)は、
- 回腸新膀胱
- 回腸導管
- 尿管皮膚ろう
回腸(小腸の一部)を使用するか、排尿が自分の意思でできるかなどの違いがあり、それぞれに長所・短所があります。 当院では尿路変更のタイプはがんの部位と悪性度、患者さんの希望、年齢や体の状態を総合的に判断して相談しながら一緒に決めていますが、積極的に新膀胱造設術を行っています。
ロボット膀胱全摘除術
近年、ロボットの普及に伴い、これまで難度の高いと考えられていた膀胱全摘除術+尿路変更術もロボットで施行可能となっています。ロボットによる繊細な鉗子の動きと拡大された視野により、出血量は大幅に減少し、より安全に手術可能となっています。
特に当院では、尿路変更も開腹ではなくロボットを用いて施行しています。ロボットによる尿路変更は高い技術を要しますが、従来の方法に比べ術後の回復が早いと考えられています。回腸導管造設術に加え新膀胱造設術も積極的にロボットにて施行しています。
術後補助免疫療法
薬物療法を使用する状況として3つの状況があります。
術前化学療法(主にGC療法(ゲムシタビン+シスプラチン))
膀胱全摘除前の術前化学療法は治療成績が向上するので、標準治療であり、当院でも積極的に施行しています。抗癌剤を組み合わせたGC療法が一般的なレジメで、状況に応じて2-4コース施行した後、膀胱全摘除術を施行します。
術後補助免疫療法
膀胱全摘術で摘出した標本で癌が深部に及んでいる場合、再発リスクを下げる目的で適応があります。免疫チェックポイント阻害剤(PD1阻害剤:オプジーボなど)が適応になります。導入は入院で行いますが、以後外来で継続します。
救済化学療法(転移が出現ないし初診時から転移を有する場合)
現在、GC療法などの化学療法、免疫ポイント阻害剤、抗体薬物複合体(エンホルツマブ、ベドチン)などが承認され、これらの併用も一部使用可能です。患者様の状態や病勢などで度の治療を行うか判断する必要があり、多職種でのカンファレンスを行っています。薬物療法は進歩が著しいですが、最新の治療が行えるよう常に体制を整えています。