京都医療センター

泌尿器科

診療内容

主に以下の疾患について取り扱っています。

頻尿(夜間頻尿)、尿失禁

定義
頻尿とは「昼間の排尿回数が7-8回以上、夜間の排尿回数が2回以上」また、尿失禁とは国際尿禁制学会の定義によると「不随意あるいは無意識な尿の漏れが社会的にまた衛生上の問題となる状態」といわれていますが、一般には 頻尿とは「おしっこが近くて困る」、また尿もれは「排尿しようと思っていないのに意志と無関係に尿がもれてしまう状態。尿もれで困っている」ことと言えると思います。
頻度
頻尿の症状で悩んでいる人は全国で200万人以上、尿失禁でほぼ毎日悩んでいる人は80万人以上、年に1~2回以上の尿失禁は600万人以上いるといわれています。一方 女性では尿失禁は4人に1人、経産婦では4割に及ぶと考えられていますが、日常生活に支障をきたしているにもかかわらず、病気と捉えて医療機関できちんと治療を受けている人は3~6%にすぎません。恥ずかしいから人に言えない、歳だからしかたがない、あるいは治らないものと諦めている人が多いのです。尿失禁は約80%が治せる、またコントロールできるといわれています。
過活動膀胱

2,002年 国際尿禁制学会において過活動膀胱(Overactive Bladder:OAB)という概念が定義されました。これは尿意切迫感を必須とした症状症候群であり、通常は頻尿と夜間頻尿を伴うものであり、切迫性尿失禁は必須ではありません。診断のためには、局所的な病態(膀胱腫瘍、膀胱結石、尿路感染など)を除外することが必要です。OABの診断・治療のアルゴリズムは下図に示す通りですが、その治療のポイントは行動療法、薬物療法や電気刺激療法(干渉低周波療法など)に代表されるNeuromodulationですが、薬物療法はOAB治療の中で根幹をなすものです。なかでも有用性や安全性の検討がなされているのは抗コリン薬(商品名 ベシケア、デトルシトール、ウリトスなど)であり、OAB治療に現在最も多く用いられています。抗コリン薬の使用にあたっては、全身のムスカリン受容体遮断作用による副作用(口渇感など)を十分考慮する必要があり、近年副作用の少ないOAB治療薬の開発が進んでいます。

一方、60歳以上の男性の下部尿路症状の原因で最も一般的なものが前立腺肥大症(BPH)ですが下部尿路閉塞を有する高齢男性BPH患者の50~75%がOAB症状を有するといわれています。本治療の第一選択はα1遮断薬(商品名 ハルナール、ユリーフ、フリバスなど)です。少なくでも4~6週間は継続し、症状の改善を認めない場合残尿をcheck(50mL以下)し、抗コリン薬(前述)の追加を行います。この場合定期的な尿流・残尿測定が必要です。他にはα1遮断薬の種類(α1a選択性のものからα1d選択性のものへ)を変更するのも有効な場合があります。

夜間頻尿

夜間頻尿の定義は、国際尿禁制学会によると 「夜間に排尿のために1回以上起きなければならないという訴え」とされていますが、実際 臨床の場で夜間の排尿回数が何回ぐらいになると患者さんが苦痛に感じ訴えるかというと、2回以上で訴えが多くなるようです。夜間頻尿の回数とQULとは密接に関係があり、特に転倒は夜間頻尿の回数が多いほど多くなり、時には骨折の原因になっています。また、夜間頻尿回数と生存率を調べた結果では、特に男性で3回以上の夜間頻尿があると有意に生存率が下がると報告しています。このように高齢化社会が到来する今、「いかに元気に老後を過ごせるか」を考えた時 夜間頻尿は重要なテーマのひとつと考えられます。
夜間頻尿の診断は一日の排尿日誌をつけていただくことが非常に有用です。一日尿量が2.8L以上の場合は「多尿」と考え、基礎疾患としての糖尿病、尿崩症などを考慮する必要があります。いっぽう一日尿量の33%以上が夜間に排泄される場合(65歳以上)は「夜間多尿」と考え、抗利尿ホルモンの日内変動異常(脳の加齢)、高血圧、降圧剤(Ca拮抗剤)、睡眠時無呼吸症候群、腎機能障害、過剰の水分摂取、カフェイン、アルコールを念頭におく必要があります。その他 明らかな蓄尿上の問題として 膀胱に関連する蓄尿障害(前立腺肥大症、過活動性膀胱、機能的膀胱容量の減少 など)や 睡眠障害などがあげられます。治療はその原因と考えられる基礎疾患の治療や生活指導、行動療法、薬物治療(表)となりますが、実際は様々な要素が絡み合っているため治療に難渋することがしばしばです。このように夜間頻尿は内科―泌尿器科領域にオーバーラップする病態で 実際 臨床の場でもようやくメス(病態を科学する)が入れられた新たな領域と考えられています。

当院では夜間頻尿でお悩みの方のために『夜間頻尿外来』を開設しています。
詳しくは⇒こちら

尿失禁の種類と原因
  1. 腹圧性尿失禁:腹圧(咳、くしゃみ、スポーツ、走る)がかかるともれる (原因)骨盤底筋群のゆるみ⇒尿道の閉める力が弱い
  2. 切迫性尿失禁:尿意を感じた途端にもれる (原因)神経系の障害・加齢・尿路感染疾患など
  3. 溢流性尿失禁:残尿があふれ出てもれる (原因)前立腺肥大症 骨盤内手術後など
  4. 機能性尿失禁:ADLや精神活動の低下により生じる (原因)認知症・脳血管障害など
尿失禁の治療
  • 骨盤底筋体操

  • 薬物療法
  • 電気刺激療法

    • 干渉低周波治療

      • 中周波電流により発生する干渉波(低周波)により、骨盤底を刺激するもの。
      • 日本において、頻尿、尿意切迫感、腹圧性尿失禁に対する、偽治療との無作為試験による有効性および長期成績が示されている。
      • 刺激機器は許可され、日本で保険適応が認められた唯一の電気刺激療法。


        ⇒本治療法は当院でも受けられます。詳しくは泌尿器科外来で相談してください。

  • 食事療法

  • 手術療法

    • こんな方は手術を

      • 症状が重い
      • 体操で効果があがらない
      • 一気に治してしまいたい
      • 思い切りスポーツを楽しみたい
    • 手術術式

      • インテグラル理論を根拠にプロリンメッシュテープを用いて中部尿道を支える方法(スリング手術)です。
        a: TVT(tension-free vaginal tape)手術
        b: TOT(transobturator tape)手術

      • 手術時間は約30分です。
      • 下半身麻酔あるいは軽い全身麻酔で手術が受けられます。
      • 昨今ではTOT(transobturator tape)手術を主に行っています。
    • “まずは恥ずかしがらずにかかりつけ医や病院などを受診してみましょう”

「ボトックス膀胱内注入療法」導入のお知らせ

当院では2021年2月よりA型ボツリヌス毒素製剤を膀胱内に注入する治療である「ボトックス膀胱内注入療法」を導入しましたのでお知らせ致します。ボツリヌス療法はボツリヌス菌が作る天然のタンパク質(A型ボツリヌス毒素)から精製された薬を膀胱内に直接注射する治療法です。この薬は筋肉の収縮を抑える働きがあり、様々な疾患の治療薬として世界90ヵ国以上で認可されています。日本でも眼瞼や顔面のけいれん、首や足の姿勢異常に対して使用されており、当科で対象となる疾患は

  1. 過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿、及び切迫性尿失禁
  2. 神経因性膀胱による尿失禁

の計2疾患となり、いずれも3か月以上の薬物療法や生活指導で効果不十分もしくは副作用等で治療継続が困難となる方が男女を問わず治療の対象となってきます。従来の薬物療法に限界を感じられていた方にとっては画期的な治療法であり、本邦では2019年12月より治療薬としての認可が下りました。

過活動膀胱・神経因性膀胱について

<過活動膀胱について>

過活動膀胱とは、急に尿意を催して何回もトイレに行ったり、トイレに間に合わず尿を漏らしてしまったりする病気の事を言います。また行動療法や薬物療法を少なくとも12週間継続して改善が見られない、または副作用などで治療の継続が困難である場合を、難治性過活動膀胱と定義しています。過活動膀胱になると尿が十分に溜まらないうちに膀胱の筋肉が勝手に収縮して、尿を出そうとします。過活動膀胱が発症する仕組みは十分に分かっていませんが、加齢・肥満・メタボリック症候群・高血圧・前立腺肥大症など様々な病気が関係していると考えられています。

<神経因性膀胱について>

神経因性膀胱とは、神経系の病気によって尿のトラブルを生じる病気の事です。神経因性膀胱になると、本人の意思とは関係無く尿が漏れたり、逆に出にくくなったりします。脳や脊髄の病気により神経が障害されると、脳からの信号が膀胱へうまく伝わらず、尿を出したり逆に我慢したりする膀胱の働きがコントロール出来なくなり神経因性膀胱を発症します。

治療方法について

治療には膀胱鏡を使用し、異常な収縮が生じている膀胱の筋肉に20ヵ所(過活動膀胱)~30ヵ所(神経因性膀胱)、直接薬を注入します。効果は通常治療後2~3日で現れ、過活動膀胱では4~8ヵ月、神経因性膀胱では8~11ヵ月に渡って持続します(効果の程度や持続期間には個人差があります)。効果が無くなってきたら改めて治療が必要となる対症療法です。
麻酔は外来治療であれば局所麻酔、入院治療であれば下半身麻酔(腰椎麻酔)もしくは全身麻酔で行われます。注射は10-20分程で終了、下半身麻酔もしくは全身麻酔であれば手術時間は麻酔時間全て含めて1時間程度で治療は終了となります。

詳しくは泌尿器科担当医にご相談ください。

(出典) 写真提供:グラクソ・スミスクライン株式会社

骨盤臓器脱


正常の骨盤内臓器の位置

骨盤臓器脱とは骨盤の中にある臓器、例えば膀胱や膣、子宮、直腸などが、それらを支える組織が弱るために膣の出口の方へ下がってくる病気です。つまり、骨盤内の臓器が膣から出てくる状態となります。ひどくなると、体の外へ出てくる場合もあります。
正常の骨盤臓器は、骨盤内で周りの筋肉や靱帯などに支えられて骨盤内に位置しています。これが出産や加齢、ホルモンバランスの変化、肥満、その他色々な要因により支える組織が弱ることにより骨盤臓器脱が起こります。骨盤臓器脱には、膀胱脱、子宮脱、直腸脱、といったようにそれぞれの臓器が単独で下がってくる場合と、または複数の臓器が同時に下がってくることがあります。

症状
  • 股の間から何かでてきている、お風呂で股間に何か触れる。
  • 股に何かはさまっているような違和感がある。
  • 尿が出にくい、尿の回数が多い、残尿感がある。
  • 残便感がある、便が出にくい。
  • 性交時に違和感を感じる。

などがあります。

検査・診断


鎖膀胱造影で恥骨の位置より下に脱出した膀胱

上記のような症状があり、特に問診で「股間から何か出てくる」との自覚症状がある場合、内診でそれを確認することで診断は比較的簡単ですが、まずはどのような症状があるかを細かく把握するため問診票を記入して頂きます。
しかし、それが膀胱脱のみなのか、子宮脱なのか、直腸脱なのか、また複数の臓器が同時に下がっているのか、といった下垂している臓器を特定することや脱の程度の評価が必要です。これには内診が必要となる他、鎖膀胱造影検査、MRI検査などが必要な場合があります。

鎖膀胱造影検査
尿道から、細い鎖を膀胱内に挿入し、レントゲン写真を撮影します。脱出部位の確認とその程度などを調べます。
MRI検査  :
より詳しく脱出部位の評価ができ、またその周辺の組織の評価も可能な場合があります。
治療
薬物療法 :
骨盤臓器脱自体を治してしまう薬は残念ながらありません。痛みがある場合などには女性ホルモン薬を使用する場合があります。
ペッサリー
膣内にリングを入れて下がってきた臓器を支えます。
手術   :
骨盤臓器脱を根本的に治すには手術による治療が必要です。これまで行われてきた手術には、子宮脱に対する子宮摘除、たるんだ膣壁を縫い縮める縫縮術、膣を閉鎖する手術、などがありますが再発率が比較的高いことや、術後のQOL(生活の質)を損なうこともありました。現在、骨盤臓器脱の根本的治療として主流となりつつあるメッシュ補強術について説明します。

TVM手術(tension-free vaginal mesh)

TVM手術とは、2000年にフランスで始まった比較的新しい術式です。ポリプロピレンメッシュと呼ばれる、メッシュ状のシートを用い、これを弱った部位に入れて補強し、下がった骨盤底をできるだけ生理的な状態で再び支えます。例えば膀胱と子宮が下がってきている場合、膣と膀胱の間にこのメッシュを挿入して下がった膀胱と膣、子宮を支えることになります。これは弱って下がってきた部位により補強する部位と手術時間が異なります。手術は経膣的に行い、お腹に創がつくことはありません。メッシュを引き出す創として大腿内側の目立たない部位に約5~10mmの切開を入れますが、術後はほぼわからない状態に治ってしまいます。

当院では2006年5月に同術式を導入し、積極的に治療をおこなっています。

骨盤臓器脱は悪性の病気ではありませんが、骨盤臓器が下がることにより違和感や不快感、排尿障害など日常生活の質を損なうような症状を引き起こします。そのため好きだった運動や旅行などを避けていた、しかし恥ずかしいので今まで受診できなかったという患者さんは意外に少なくありません。手術を受けることで以前と同じようにまた趣味を楽しむことができるようになった方は多くおられます。
当院では、骨盤臓器脱に対して上記のメッシュ手術を主に行っています。また必要があれば婦人科医師とも連携のうえ、患者さん一人一人に合った最適な治療法を行います。患者さんの症状や状態により治療方法は変わってくることがありますが、このような症状があり骨盤臓器脱にあてはまるかもとお考えの患者さんは、まずは受診し、医師に是非相談をしてみてください。