国立病院総合医学会





泌尿器科

診療内容

男性不妊症

不妊症とは

不妊症とは一般に通常の性生活があって12ヶ月妊娠が成立しない場合を不妊症といいます。正常のカップルでは、1排卵周期に妊娠する確率はおよそ15%とされており、12ヶ月後に妊娠していないのは計算上15%となり、一般集団での不妊症夫婦の頻度と一致します。
不妊症の原因は1996年WHOの統計によると女性側のみの原因が41%、男性側のみが24%、男女ともが24%、原因不明が11%であり、男性因子の関与が約半数という従来の報告ともよく一致しています。しかし近年での体外受精で代表される補助生殖医療(ART)の発展とともに不妊症の概念、治療体型も大きく変わってきています。日産婦の統計では平成11年度の体外受精・胚移植による出生数は1万人をこえ、総出生児の100人に1人が体外受精児である時代が到来しました。

男性不妊症の原因

Ⅰ.精子形成障害(造精機能障害)によるもの

    1. 特発性
    2. 精索静脈瘤
    3. 精巣炎
    4. 停留精巣
    5. 染色体異常:クラインフェルター症候群(47、XXY)など
    6. 内分泌障害:ゴナドトロピン欠損症、GnRH欠損症、高プロラクチン血症、甲状腺機能低下症など
    7. その他

Ⅱ.精子輸送路通過障害

    1. 先天性:先天性両側性精管欠損症、射精管閉塞など
    2. 炎症後閉塞:精巣上体炎など
    3. 医原性:ヘルニア術後、精管結紮術(パイプカット)術後

Ⅲ.副性器感染症

    1. 膿精液症、精巣上体炎、精巣炎など

Ⅳ.性機能障害

    1. 性交障害:勃起機能障害など
    2. 射精障害:糖尿病性神経障害、後腹膜リンパ節郭清術後など

精巣での精子形成障害によるものが全体の80~90%、精子輸送路通過障害によるものが5%、副精路感染症によるものが 1~2%、性機能障害によるものが 10%といわれています。近年複雑な社会生活環境の変化により性交障害(勃起機能障害 ED)による不妊症が増加しているのも特徴です。精子形成障害の原因のうち基礎疾患が明確でない「特発性」が最も多く(全体の50~60%)、ついで精索静脈瘤(全体の20~40%)の順であり、表のその他のものは1~5%です。

男性不妊症の検査・診断法

◆問診: 耳下腺炎(精巣炎)、停留精巣、性感染症、鼠径ヘルニア手術(医原性の精路閉塞の可能性)などの既往症に加え、過去の妊娠・流産歴、不妊期間、これまでの検査結果・治療内容、現在の夫婦生活の状況(性交障害の有無、回数)等を聴取します
◆視診・触診: 精巣・精巣上体・精管の触診、精索静脈瘤の有無・程度、必要であれば経直腸超音波断層法による前立腺・精嚢・射精管・膀胱頚部の診察を行います。
◆精液検査: 精液量2.0ml以上、pH7.2以上、精子濃度20×106/ml以上、精子運動率50%以上、精子正常形態率15%以上、精子生存率75%以上、白血球数1×106/ml以下を正常とします。精液検査で精子濃度20×106/ml以下を乏精子症、精子がまったく存在しないものを無精子症、運動率が50%以下のものを精子無力症という。詳しくは精液検査標準化ガイドライン(監修 日本泌尿器科学会)を参考にしてください。

 

精液検査を一回だけで診断してはいけません。妊孕性が証明されているボランテイアに週1回の精液検査(精子濃度)を120週間にかけて調査したグラフを図1に示します。グラフに示されるように精子濃度は最高170×106以上から最低10×106以下とかなりの変動があります。精子濃度は20×106以上を正常と定義されていますが、この調査ではそれを満たさないものが数回認められます。このように精液所見は場合により大きく変動するため、少なくても2回以上の検査を行って評価することが勧められています。精液検査標準化ガイドラインによると「採取回数:1ヶ月以内に少なくても2回行う。2回の結果に大きな相違がある場合はさらに検査を行う。2回の場合はその平均値、3回以上の場合は中央値を採用する。」と定義されています。

無精子症の定義:精液中に精子が存在しないこと、無精子症が疑われる場合には精液全量を500xg、15分遠心する。沈殿を検鏡して精子を認めなければ、無精子症と判定します。無精子症は精路の通過障害に伴う閉塞性無精子症とそれ以外が原因となる非閉塞性無精子症に分類されます。

非閉塞性無精子症の定義:精路(精子輸送路)の閉塞に起因しない無精子症のこと。一般には視床下部下垂体系の低アンドロゲン症に伴う無精子症は除外されます。病態:精巣原発の造精機能障害によるもので、特発性(原因不明)、クラインフェルター症候群(47XXY)、Y chromosome微少欠失、停留精巣、精巣炎、などが原因と考えられる。病理学的には Sertoli-cell-only syndrome、Maturation arrest、Hypospermatogenesisに分類されます。

◆内分泌学的検査: 血中FSH、テストステロンなどを測定する。FSHが高値の場合は精巣での造精機能障害に伴う2次的な上昇と考えられるが、FSHが低値の場合は 視床下部・下垂体の異常に伴う造精機能障害が考えられ、ホルモン補充療法の適応を検討する必要があり、治療効果が期待できます。一般には2次性徴遅延で発見されることが多い。

治療方法、治療上のポイント

・特発性:
  ○薬物療法
○ 精巣内精子採取術(Testicular Sperm Extraction: TESE):

TESE:射出精液中に精子がなくても精巣内(精細管内)に本法にてわずかでも精子が採取されれば顕微受精に供することで挙児が期待できます。非閉塞性無精子症に対する治療法の第一選択です。近年 顕微鏡を用いた手術(microdissection TESE)にて 精子採取率が向上しています。

・精索静脈瘤:
  ○内精索静脈高位結紮術
○内精索静脈低位結紮術(顕微鏡下リンパ管温存内精索静脈低位結紮術 など)
○腹腔鏡下手術
○経皮的塞栓術
・内分泌障害:
  ○ゴナドトロピン補充療法(LH作用をもつhCG、FSHを含むhMGや遺伝子組み換えrFSHの併用など)
○LH-RH間歇的注入療法
・精子輸送路通過障害:
  ○精路再建術
○精巣内精子採取術(TESE)、精巣上体精子吸引術 など
・性交障害:
  ○薬物療法(sildenafilなど)
○カウンセリング

上記治療法に加え、不妊期間、妻の年齢、治療効果を考慮し、補助生殖医療(人工授精、体外受精 等)の併用のタイミングを図ります。妻の年齢が35歳を過ぎますと体外受精の成績が低下するため、むやみに男性不妊治療に時間を要しないよう注意が必要です。泌尿器科、婦人科との連携も重要です。また治療法の選択には十分な説明のうえご夫婦の意見を十分尊重しなくとはいけません。
男性不妊症に対する治療は、補助生殖技術 (Assisted Reproductive Technology: ART) とくに顕微受精 (Intracytoplasmic Sperm Injection: ICSI) の臨床応用により革命的な変化がもたらされました。これによって従来治療困難であった高度乏精子症や無精子症患者でも妊娠の成立が可能となりました。しかしその反面ICSIさえ行えば男性不妊の治療は必要ないのではないか、という議論さえされるようになりました。しかしながら、ARTに関しては多胎、流産、卵胞過剰刺激症候群  (Ovarian Hyperstimulation Syndrome: OHSS) 等のパートナーに対する肉体的負担や ART に関わる高額な費用負担、さらには患者・家族の精神的不安等、種々の問題点もあるのは事実です。本来は夫婦の愛情に包まれた性行為に基づいて生じる自然妊娠がだれしも望むところであり、自然妊娠が期待しうるカップルには正確な情報を提供し精液所見が悪いからといって安易に体外受精を勧めることは慎むべきと考えられます。

尿路再建

閉塞性無精子症に対する治療法のひとつである精路再建術は顕微鏡手術の導入により、精管精管吻合術や精管精巣上体吻合術の手術成績は飛躍的に向上しました。本術式を行う意義は、自然妊娠が期待できること、女性に対する侵襲を避けること、体外受精の問題点を避けることにあります。
◆精管精管吻合術
適応
①精管切断術後
②小児期鼠径ヘルニア手術後の精管閉塞
◆精管精巣上体吻合術(図5)
適応
①精巣上体炎
②管閉塞による二次的な閉塞
③Young症候群(副鼻腔炎、気管支拡張症、慢性気管支炎などを合併する原因不明の症候群)
④原因不明、先天性

◆成績:全国29泌尿器科施設において精路再建術を行われた580例の成績を紹介します。術後精液検査で精子出現率は、精管精管吻合術64.8%、精管精巣上体吻合術47.3%であり、自然妊娠率は術後6ヶ月以上経過観察できた392例において、それぞれ22.4%、24.2%で、手術後妊娠までの期間は、中央値10.5ヶ月でした。

精索静脈瘤とその手術

◆精索静脈瘤の定義と成因
精索静脈瘤は蔓状静脈叢の怒張とうっ血であり、腎静脈から内精索静脈、さらには、蔓状静脈叢への静脈血の逆流が主な成因と考えられています。

 

◆精索静脈瘤と不妊症 精索静脈瘤は一般の健康な青年男子の約10%に認められるのに対し、男子不妊症患者では約 20~40%と高率に認められ、不妊症の重要な原因の一つとして考えられています。またその治療によって約 60~70%の患者で精液所見の改善を、約 20~40%の患者でパートナーの妊娠が得られると言われており、精索静脈瘤の正確な診断と適切な治療は不妊治療において重要とされています。

  精索静脈瘤の病因論:静脈血の逆流によって①副腎・腎からの代謝産物の逆流②低酸素血症③陰嚢内温度の上昇などが考えられていますが、今だはっきりとした原因は解明されていません。

◆精索静脈瘤の手術
精索静脈瘤に対する治療は従来後腹膜到達法による内精索静脈高位結紮術が広く行われてきましたが、近年、より侵襲の少ない治療法として、顕微鏡下低位結紮術、経皮的塞栓術、腹腔鏡下手術が開発され、その選択は多岐にわたります。どの治療方法を選ぶかは各施設、各医により異なると思いますが、患者背景から早期の社会復帰が可能で再発率の少ない手術術式の選択が理想と考えられます。内精索静脈低位結紮術、特に顕微鏡下手術は統計学的には従来の手術法と比べ妊娠率に差が認めませんが、局所麻酔で手術が可能で早期の社会復帰(日帰り手術も可能)ができ、動脈周囲の細静脈も確実に結紮できることから再発率も少ないことが予想され、またリンパ管を温存することができるので術後の陰嚢水腫の合併症が少ないことから、今後精索静脈瘤手術の主流となってくると考えられます。

文献

精液検査標準化ガイドライン。日本泌尿器科学会 監修 金原出版 2003
松田公志 他 閉塞性無精子症に対する精路再建術の成績:全国多施設での調査報告 日不妊会誌 45(2): 143-149, 2000
奥野 博 他 男性不妊症における精索静脈瘤手術の意義。日不妊会誌 45(4): 333-337, 2000
奥野 博 他 精索静脈瘤の診断と治療。臨泌50(7): 471-477, 1996
奥野 博:精索静脈瘤手術のUP DATE。日本生殖外科学会雑誌19:40-49, 2006