≪論文≫内分泌に関連した注目すべき病態
男性更年期Ⅱ 勃起障害
男性更年期障害Ⅰの続きです。
勃起障害(erectile dysfunction; ED)
EDの定義i(1999 National Institute of Health (NIH) のコンセンサス会議より)
性交時に
- 十分な勃起が得られない
- 十分な勃起を維持できない
つまり、満足な性交が得られない状態のことをさす。
(文献)NIH Consensus Conference: Impotence. NIH Consensus Development Panel on Impotence. JAMA 270, 83-87, 1993
勃起のメカニズム
平常時には、陰茎内の海綿状動脈とラセン動脈と海綿体小柱の平滑筋は収縮しており、海綿体動脈からの血液は毛細血管網を介して、海綿体の組織を栄養するだけに十分な量だけ、流れるようになっている。
勃起はまず、性的刺激や陰茎への直接刺激によって、大脳性中枢が興奮し、その刺激は副交感神経である骨盤神経を経由して陰茎海綿体神経に伝わる。海綿体内ではacetylcholine, vasoactive intestinal polypeptide (VIP) および一酸化窒素 (NO) が放出され、抵抗血管である海綿体動脈とラセン動脈の弛緩が始まる。これにより、動脈血が海綿体洞に流れ始める。さらに海綿体小柱の平滑筋が弛緩することにより、海綿体のコンプライアンスが上昇し、海綿体洞がさらに多量の血液を受け入れる。さらに静脈閉鎖機構(引きのばされた白膜と拡張した海綿体洞によって貫通静脈が圧迫される)が働き、流出抵抗が高まり、勃起が完成する。(図3 勃起のメカニズム)
EDの原因
- 身体的な原因
高血圧、高脂血症、糖尿病、動脈硬化、 パーキンソン病、脳血管障害、脊椎損傷、多発性硬化症、骨盤内手術、薬剤性、ホルモンの低下 - 精神的な原因
心因性、精神病性
EDの治療
治療の種類
- 薬物療法(シルデナフィル、HRT、など)
- 血管作動性薬剤陰茎海綿体注射(PGE1・塩酸パパベリン、など)
- 体外陰圧式勃起補助具
- 手術療法(プロステーシス陰茎海綿体移植療法、など)
- 心理療法・カウンセリング
シルデナフィル (sildenafil) の作用機序:
性的興奮により海綿体内皮細胞においてNOが合成放出され、海綿体細胞内に浸透しグアニル酸シクラーゼを活性化し、c-GMPを産生することにより、細胞内のカルシウムレベルを低下させ、海綿体平滑筋を弛緩させ、勃起が成立する(図4)。一方、このc-GMPは陰茎海綿体に豊富に存在するPDE (phosphodiesterase) 5型により分解され、勃起は消退する。
シルデナフィルは、このc-GMPを分解する PDE 5型の作用を抑えることにより、勃起を起こし、かつ維持させる作用がある。
薬物相互作用(硝酸剤):
シルデナフィル単独で投与した場合には、内因性のNO(主に血管内皮細胞由来で、NOは少量)の効果を増強する結果、軽度の血圧低下を起こす。硝酸剤(外因性NOの供与剤でNOは多量)を併用すると全身の血管が拡張して著明に血圧が下がるので、併用禁忌である。
- 性的刺激がないと勃起を起こさない
- 催淫剤や性欲増進剤ではない
- 性感染症を防ぐ効果はない
- ED以外の男性性機能障害(射精障害など)には効かない
- 医師から患者さんに「EDの症状はいかがですか?」と問いかける
- 「抑うつ症状」のある患者さんは、潜在的にED症状があると疑ってみる
- まずは「抑うつ症状」の改善から
- 抑うつ症状が改善し、患者さん自身が性交渉に関心を持つようになった時点でタイミングをみてシルデナフィルを勧める
- シルデナフィル1回の服用で性交渉が失敗してもあきらめないよう患者さんを勇気づける
(文献) 佐藤 嘉一:ED治療にとりくむ病医院―患者さんの心をつかむー、医師から患者さんに積極的に問いかける。日本医事新報4178, C1-C5, 2004 6.
おわりに
男性更年期症の概要を解説してきたが、治療にたいしては薬などを使った治療だけでなく、パートナー、家族、職場での人間関係も重要。励ましたり愚痴を聞いたり、腕を組んで一緒に散歩するなどでも症状は和らぐ。だだ、一進一退するので、焦らずじっくり診察してあげることが大切であると考える。