京都医療センター

整形外科

スポーツ整形・手の外科・小児整形

スポーツ整形外科

スポーツに伴うケガや痛みは大きく二つに分けられます。 スポーツ活動に伴う慢性的な痛みや変形などはスポーツ障害とよび、スポーツ活動の際に受傷した急性のケガ、骨折、捻挫などのスポーツ外傷と区別しています。
スポーツ障害の大部分はオーバーユーズと呼ばれる使い過ぎに原因があります。 スポーツを中止するということだけが治療方法ではありません。適切な指導により、発症を予防するあるいは、スポーツ活動を継続しながら治療することが可能です。 メンバーの脱落による戦力不足がさらにけが人を生むという悪循環を断ち切るためにも、症状が軽症なうちに治療を開始して、早期に復帰できるよう、治療にあたります。
さらに、近年では適切な薬物治療を行わないとドーピング検査で違反を指摘される危険もあります。 予防を含めたメディカルチェックなどについては、可能な限り、こうした現場のニーズにこたえるよう努力しています。
スポーツに伴う外傷、障害については競技のレベルに合わせて治療方法を選択することが必要です。 早期復帰を希望する場合は手術を行うこともありますが、一般的には運動療法、装具や注射などを行い、早期の競技復帰を目指します。代表的な疾患として以下のものが挙げられます。

発育期の腰痛、腰椎分離症
ランニングによる足部、膝の障害や疲労骨折、ジャンパー膝
野球などにおける肘、肩の投球障害

手の外科

この分野での世界の先駆者であるSterling Bunnellが、第1次、2次世界大戦での医師としての治療経験から“atraumatic surgery”が再建外科学には不可欠であると述べました。『手の外科』は再建外科であり、いわゆる手にとっては肩、肘も含めた上肢全体の機能再建を扱います。再建は治療者による個々の患者に合わせた組み立てが必要となり、art(芸術)であり、職人技がものをいう分野です。
世界中の数多くの偉人たちによって築き上げられ、日本では広島大学の津下健哉先生、新潟大学の田島達也らが手の外科という分野を確立し、若くしてアメリカで活躍された京都大学の上羽康夫先生らの尽力により、世界から一目を置かれる『日本の手の外科』となっています。歴史を忘れることは同じ過ちを繰り返すことになります。偉人とされる先生でさえ、「手術の前は、いつも祈りながら手術に向かうんだよ」と話されたそうです。自分が治療者になることが、その患者にとって不幸にならないようにしたいと考え、臨床にあたっています。偉人たちの足跡を正しく継承して後進に伝えながら、治療に取り組んでいきたいと思います。

難治性複合組織損傷に対する再建術

交通事故や大規模災害などで、四肢に大きな損傷を生じることがあります。当院、救命救急・救命集中治療科との連携で全身状態の管理をしながら、可及的早期に損傷組織の修復を行っていきます。具体的には、四肢切断であれば即日、顕微鏡を使って再接着術を行います。創が泥などの異物で汚染が強かったり、骨の固定のために特殊な器械を取り寄せなければならなかったりするときには、創外固定器などで骨折部の安定化を行うと同時に、創の洗浄や壊死組織の切除を行い、土台となる骨の修復と平行して、皮膚や筋肉、神経、骨の移植術によって、失われた組織の解剖学的修復を第一に行い、早期の社会復帰を目指します。たとえ、四肢が動かせなくなったとしても、神経移行術、筋・腱の移行術、場合によっては体の別の場所の筋肉を移植して動かなくなった関節を動かすことができることもあり、脳神経内科とも連携して、原因を精査して運動機能の回復を行っています。

小児整形外科

当院では専門病院での治療経験を持つ医師による小児整形外科外来を開設いたしております。 治療の対象となる疾患は乳児~幼児期の疾患と学童期の疾患に大きく分けられますが、乳幼児であれば発育の発達過程が、学童期であれば学校教育などの問題が生じてきますので、小児科や院内学級と連携して治療に当たっております。

乳幼児期
先天性股関節脱臼先天性内反足、筋性斜頚
学童期
ぺルテス病大腿骨頭すべり症
脊柱側弯症、脚長差、成長障害

先天性股関節脱臼

先天性股関節脱臼は、健診で股関節の開きの悪さ(開排制限)などを指摘されて(出生100人当たり数人)、発見される例が大半です。当院では、エコーにより重症度を判断してから治療方針を決めることにしていますが、ほとんどの例では脱臼の程度は軽いため、以下の注意点を守ることによって大半の赤ん坊で症状が改善します。

赤ん坊の股関節を強制的に伸展させたり、開かせたりしない
赤ん坊の下肢の動きを妨げるようなオムツや衣服を着用させない。
赤ん坊が自由に下肢を動かすことができるように注意する。

このような点に注意しながら 2 ~ 3 ヶ月の間 , 経過を診ていても改善が認められない例においては、本格的な治療が必要になります。
軽度の脱臼に対しては、牽引の後にリーメンビューゲルというバンドを装着して治療します。当院ではビニール製のバンドを採寸して作成しています。原則的に24時間装着し、2~3ヶ月程度で徐々に除去していきます。
高度な脱臼に対してリーメンビューゲルを使うと、整復が不可能である、あるいは整復される際に大腿骨頭の変形をおこす危険性が非常に高いことがわかっています。これらの例に対しては開排位持続牽引法という方法で、整復しています。整復が得られればギプス固定したまま退院してもらい、ギプスを除去後にリーメンビューゲルを装着します。
先天性股関節脱臼の後遺症と考えられる病態として臼蓋形成不全があります。整復が十分ではない例、あるいは脱臼が高度であった例においては、臼蓋と呼ばれる骨盤側の受け皿の部分の発育がわるいため成長につれて徐々に大腿骨頭が外側へ亜脱臼していく病態です。このような状態を放置していると将来的には早期に変形性股関節症に進展していきますので、痛みなどの症状がなくても、予防的な手術が必要となることがあります。成長終了までの期間、骨盤と大腿骨頭の関係を見守りながら、必要であればソルター骨盤骨切術などの補正手術をすることが大切であると考えております。

先天性内反足

先天性内反足は尖足変形による足底での接地が出来ない為、治療しないと歩行が困難になります。この変形を矯正するには、可能な限り早期よりマッサージと矯正ギブスによる治療を開始し、外来で治療を継続していきます。尖足変形が矯正できない例に対しては、手術によって歩行開始までに変形を矯正する必要があります。足の変形を予防する為には、成長が終了するまでは装具治療が必要です。

ぺルテス病

ぺルテス病は小学校入学前後の男児に発症することが多く、大腿骨骨端核への血流が一時的に阻害された結果、レントゲン上では扁平化などの変形が起こりますが、長い経過でみると元の形にまで再生してきます。全経過は1~ 2 年であり、変形した部分に過剰な負荷がかかると変形が残存します。治療の基本は、変形した骨端核が再生してくるまで骨盤の臼蓋で覆いこんで、変形が生じないようにするという containment という考え方です。
しかしながら発症年齢、性別によって予後も大きく異なる為、治療方針も異なります。下肢を外転位に保持する装具による装具療法が一般的ですが、小学校入学前の発症例では、装具装着が困難であるため、外来で経過を観察する例が少なくありません。発症が低年齢であれば、大腿骨頭の変形もほとんど残りませんので予後は良好です。
しかし10歳前後の高年齢での発症例では、変形が残るため予後不良であり、早期に骨盤骨切術や大腿骨骨切術を行い外科的に containment を得たほうが良い結果が得られることがわかっています。
当院においては院内学級がありますので、たとえ入院が長期に及んでも対応できますが、検査結果などをふまえて保護者の方と相談させていただいて治療方針を決定いたします。

大腿骨頭辷り症

大腿骨頭すべり症は大腿骨頭の骨端核が成長軟骨帯で不安定性を生じて徐々に後方へと移動していくのが病態で12歳前後のやや太った男児に発症することが多い疾患です。力学的強度の低下の原因には体重などの要素の他に内分泌的な要素が考えられています。
徐々に転位が生じる慢性型では、整復操作を行うことにより壊死がおこるとの報告が多いため、当院では、まず転位した状態のままピンによる固定を行い( in situ pinning )、残った変形に対しては大腿骨骨切術で対処することにしています。 転落や交通事故などの大きな外傷によっても同様の病態は起こりますが、これは骨端線離開という一種の骨折であり、整復操作が必要ですが、整復が得られて一旦治癒しても、骨端核の壊死や変形が多発します。