京都医療センター

心臓外科

体に優しい心臓手術への取り組み

○ 経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)を始めました。

治療ができるのは、大動脈弁狭窄症の患者様です。大動脈弁狭窄症は、年齢とともに進行する病気であり、80歳を超えて長生きすることが当たり前になった近年は特に増えています。
従来、心臓の出口に大動脈弁を交換するには、胸を切開し人工心肺を装着して心臓を止めた上で、心臓の中を空にして入れ替え(外科的大動脈弁置換術SAVR)を行っていました。経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)では、主に足の付け根の動脈(大腿動脈)にカテーテルを挿入し、折りたたんだ人工弁をカテーテル越しに心臓の出口に運びます。心臓を数十秒間だけ一時的に止めた状態で、もとの狭くなった大動脈弁を押し広げる形で新しい弁を植え込みます。人工弁の外側にはステント(金網)がついており、石灰化して固くなったご自身の大動脈弁に食い込んで固定されます。胸に傷がなく、足の付け根に小さな傷ができるだけであり、翌日から歩行が可能です。まだ、弁を折りたたむことで、耐久性が落ちる可能性があり、すべての患者さんに適用できるわけではありませんが、高齢の方やほかに大きな病気を持っている方には最適な治療法です。

○ 胸腔鏡下右小開胸心臓手術(MICS minimally invasive cardiac surgery)始めます。

従来ほとんどの心臓外科手術は胸の正中を20ccm程度切開する胸骨正中切開によっておこなってきました。MICSとはこの胸骨正中切開を行わない、小開胸の手術です。主に心臓弁膜症の患者さんが対象になります。
標準的な心臓手術と同じように、人工心肺を使用し、心臓を止めて手術をします。胸の傷は右胸に5~10cmとかなり小さく、胸腔鏡というカメラを使用することで手術します。これにより、標準的治療に引けを取らない完成度の手術が可能となります。人工心肺も、足の付け根や小さな傷から管を入れて使用します。見た目に傷が小さいことと、職場復帰や自動車運転が早期から可能となること、傷が感染した場合にも比較的危険性は低くなるなどのメリットが期待できます。

地域の皆様へ

心臓病、特に手術が必要かもしれないと医師から告げられると不安で夜も寝られないという患者さんは多くおられます。我々心臓外科の外来に初めて来られる患者さんは皆さん不安なお気持ちを抱えておられ、御家族もさぞかしご心配のことと存じます。
心臓病については、比較的多くの経験的なデータ、客観的なデータが揃っており、患者さんの病状やご年齢、持病などに応じて治療方針や手術の可否が客観的に評価できます。きちんと治療を行えば根治できる疾患も多く、ほとんどの患者さんが元気を取り戻します。
患者さんに応じて、比較的症状が軽くても病状としては深刻で手術をお勧めする場合もありますし、逆に手術を希望されてもリスクが高ければ内科的治療をお勧めする場合もあります。一方でリスクは高くても手術が必要であれば、どのように問題を解決するか、知恵を絞って最善の治療方法を考えます。
患者さんの不安に寄り添うことが我々の仕事の第一歩と考えており、まずは患者さんと我々がゆっくりとお話をさせて頂き、本当に必要な治療は何か探ることから始まります。

地域の先生方へ

いつも患者さんのご紹介をいただきありがとうございます。また当科術後患者さんの日常診療を継続頂き、ありがとうございます。当科で手術をさせていただいた患者さんにおかれましては、日常生活に復帰されるとともにかかりつけ医の先生方に日常診療をお願いし、当科では定期的な術後フォローアップをさせて頂いております。もしも何かありましたらいつでもご一報頂きますようお願い申し上げます。必ず迅速に対応させて頂きます。
超高齢化社会を迎え、以前では考えられなかった年齢でも安全に治療を受けて頂ける時代になりました。2021年にはハイブリッド手術室が完成し、2022年度より心臓弁膜症に対する経カテーテル治療(経カテーテル的大動脈弁留置術TAVI)が可能となり、6月より治療を開始しました。TAVI治療の開始は当院では間もないものの、TAVIの経験豊富な実施医もおり安全に施行できると考えております。その他にも、従来からの大動脈内ステントグラフト留置術については当院の医師も指導医を取得し、より安全かつスムーズに治療を受けていただくことが可能となりました。さらに、2022年、胸腔鏡下弁膜症手術の施設認定を受け。23年には胸骨正中切開を避けた小開胸手術(MICS)を開始します。これからも治療の低侵襲化に向けて研鑽を積みたいと考えております。
今後とも心臓血管グループとして循環器内科、血管外科と歩みを一にして参りますので心臓血管関連のお問合せであれば疾患、領域を問わずご一報頂ければ幸甚です。

診療科の理念

当科は、京都府南部地域における循環器疾患の基幹施設として機能すべく、2011年に開設しました。心臓血管外科専門医認定機構より基幹施設認定を受けております。
診療科の理念として、

  1. 心臓外科診療を通して人々のお役に立つ。
  2. 診療の透明性、安全性を確保する。
  3. 地域における循環器診療の最後の砦となる。

の3つの診療指針の下、循環器内科、血管外科、救命救急科、麻酔科との緊密な連携を維持しながら安全安心な医療を提供するように努力しています。

対象疾患

当科が主として治療を行う疾患は、虚血性心疾患、心臓弁膜症、大動脈疾患の3つの領域に大別されます。それぞれの分野で行っている代表的な標準的外科治療と血管内治療を紹介します。

虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)
心筋を養う冠動脈(冠状動脈)の狭窄や閉塞によって起こる疾患です。冠動脈に対する血流を再建することが治療目標です。
  • 標準的外科治療  冠動脈バイパス術(CABG)
  • 血管内治療  冠動脈形成術(PCI、循環器内科に依頼)
心臓弁膜症(大動脈弁疾患、僧帽弁疾患など)
心臓には血流の方向を一定に保つ逆流防止弁が4つ(大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁)存在し、これらの弁の機能不全によって血液の逆流や通過障害が起こります。これを心臓弁膜症と言います。弁の形態を再建したり、人工弁に置換することで弁機能を正常化することが治療の目標です。しばしば併存する不整脈に対する手術も同時に行い、治療効果を高めます。
  • 標準的外科治療  弁形成術、弁置換術
  • 血管内治療  経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)
大血管疾患(胸部大動脈瘤、急性大動脈解離など)
動脈硬化や高血圧を背景に生じる大動脈の拡張や亀裂に対する外科治療を行います。
  • 標準的外科治療  人工血管置換術
  • 血管内治療  ステントグラフト内挿術(TEVAR, EVAR)

以上を表にまとめる以下のようになります。それぞれの疾患、患者さんの状態に応じて治療方法を検討、決定します。

標準的外科治療 血管内治療
虚血性心疾患 冠動脈バイパス術(CABG) 冠動脈形成術(PCI)
心臓弁膜症 弁形成術、置換術 TAVI
大動脈疾患 人工血管置換術 TEVAR、EVAR