乳腺外科について
当院外科の一部門として乳腺疾患の診療を行ってまいりましたが、2021年4月より乳腺外科を標榜することになりました。当科では乳腺疾患の精密検査・治療をおこなっており、おもに乳がんの手術、術前術後の薬物療法、乳がん術後のフォロー、再発乳がんの治療をおこなっております。
以下のようなときには乳腺外科を受診しましょう。
- 乳房やわきにしこりがある
- 乳首から分泌物がある(特に出血や黒い分泌物)、乳首がじゅくじゅくする
- 乳房の皮ふにひきつれがある、赤く腫れている
- 検診で精密検査をすすめられた
上記以外でも乳房に気になる症状がある際には受診してください。
診療内容
乳がん
医学の進歩や生活環境の改善によって寿命が延びるとともに、さまざまながんにかかる可能性が高くなっています。ことに女性では、以前多かった胃がんや子宮がんに代わって、乳がんや大腸がんが増加しています。乳がんは 20 代から 80 歳以上の方まで、どの年齢層でも発症する病気です。最近では、特に 40 代で急上昇していますので、家庭でも社会でも重要な時期の女性に最も多く発生するがんといえます。乳がんは自分自身で見つけることができる唯一のがんですから、乳房の健康について関心を持つことが重要です。
乳がんの診断
乳腺外科を受診されますと、乳房の診察や検査として以下のような診断方法があり、手順を踏んで慎重かつ迅速に診断していきます。
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視触診
専門医が患者さんのお話を聞いた後に、乳房全域をくまなく調べる最も基本的な診断法です。 -
超音波検査
乳房の皮膚面より超音波をあてて乳房内の変化を調べます。 X 線ではありませんので被爆の心配はなく、妊娠中でも検査が可能です。 -
マンモグラフィー
低電圧の X 線をあてて乳房像を描出する方法で、京都市の乳がん検診でも 40 歳以上の女性に併用されています。 -
針生検
シコリに細い針を刺して細胞を採取したり ( 細胞診 ) 、やや太い針を刺して組織を採取して ( 組織診 ) 、顕微鏡下にがんがあるかどうかを調べます ( 病理診断 ) 。 -
生検
シコリが触れても乳がんの診断が判定困難な場合には、局所麻酔下にシコリを切除して、顕微鏡下にがんがあるかどうかを調べます。
どこまでの検査が必要であるのかは、外来診察時に担当医師と十分に相談しましょう。
乳がんの治療
我が国では、以前は「乳がんと診断された場合はまず手術が必要であり、乳がんは外科単独で全てを治療する」という風潮がありました。もちろん手術をして乳がんを取り去ることは治療法の大きな柱であることに間違いはありません。しかし、乳がんに対する治療として、乳腺外科、放射線科、腫瘍内科、遺伝診療部、臨床病理部、看護部などが協力して取り組む必要がありますので、当院ではこうしたチーム医療を行っています。
主な治療として1)手術、2)薬物療法 、3)放射線治療などが挙げられます。どのような治療法が有効なのか、どの治療を優先して行うべきか、定期的に「乳がん診療カンファレンス」を行っています。
2018年に日本乳がん学会より『乳がん診療ガイドライン』が発刊されましたので、原則としてそれに準じて治療計画を立てていますが、個々の患者さんにとって最適の治療法を判断するように心がけています。
治療を行うに当たっては当然のことですが、患者さんご本人およびご家族の方に十分説明をして同意を得るようにしています。些細なことでも分からない事があれば、何なりと気兼ねなくお尋ねください。
- 乳がんの手術
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乳がんを治療せずに放置しておきますと、がん細胞が身体の遠くへ ( 例えば骨・肺・肝臓など ) 転移します。乳がんの手術の目的は、転移を起こさないように乳がん本体を切除することにあります。以前はできるだけ大きく切除する方が治癒する確率が高いと考えられていましたが、いたずらに大きな手術をしても予後の向上には貢献しない事が判ってきました。
乳がんの手術の基本は、乳がんの切除と脇の下 ( 腋窩 ) のリンパ節を切除することで、乳房とその近傍の局所を制御することにあります。乳がんを切除する方法として、1,乳房切除術 ( 乳腺を全て切除 ) と 2,乳房温存手術 ( 乳腺の部分切除 ) があります。乳房切除術となる場合、患者さんのご希望に応じて、当院形成外科と連携して乳房再建術を行っています。また、腋窩のリンパ節を切除する範囲も縮小されてきていますので、腋窩リンパ節にがんの転移がない場合は全て切除するのではなく、センチネルリンパ節生検にて一部のリンパ節のみを摘出する手術となっています。
乳がん手術の縮小化に伴って、手術の根治性を損なうこととなく、術後の整容性の向上が図られるようになりました。 - 乳がんの薬物療法
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乳がんの手術を受けられると画像などで見えるがんは切除されます。しかし、精密検査でも発見できないような微小ながん細胞がすでに骨・肺・肝臓などほかの臓器に転移している場合があります。このようながん細胞が再発につながります。ですから手術が治療のすべてではなく、薬を用いた全身的な治療で「存在しているかもしれない微小ながんを叩く」必要があります。
代表的な治療法としては1)ホルモン療法(内分泌療法)と2)抗がん剤(化学療法)と3)分子標的薬の治療があります。
どの治療を行っていくかは、手術前の針生検で採取したがん組織の病理検査の結果とがんの進行度(ステージ)により治療の効果・再発リスクおよび患者さんの状態により考えていきます。手術後におこなうことが多いですが、手術前におこなうこともあります。いずれの治療も少なからず副作用がありますので、治療を行う前には担当医と十分に話し合いましょう。 - 乳がんの放射線治療
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乳房温存手術(乳房部分切除)やリンパ節転移の多い場合、リンパ節や皮膚、温存乳房の局所の再発を予防する目的で術後に放射線治療を行います。また再発の場合、骨転移や脳転移に対して放射線治療を行うことがあります。必要な場合には当科より放射線科の受診の手続きを行います。
乳がんの遺伝について
乳がんの5-10%は発症に遺伝が関係していると考えられています。そのなかでも一番多いものは「遺伝性乳癌卵巣癌症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome: HBOC)」です。HBOCはBRCA1遺伝子およびBRCA2遺伝子の病的な変異があり、乳がんと卵巣がんが高いリスクで発症する遺伝性腫瘍です。適応に応じて遺伝診療部での遺伝カウンセリングおよび検査にご紹介いたします。