フローダイバーター治療
未破裂脳動脈瘤に対する新しい治療法である「フローダイバーター治療」が2024年3月より京都医療センター脳神経外科で施行できるようになりました。
未破裂脳動脈瘤に対する最新治療
脳動脈瘤は、脳動脈の血管の壁が薄くなって”お餅”のように膨らんだ病態です。無症状で経過することも多いのですが、動脈瘤が一旦破裂すると「くも膜下出血」を引き起こし、重篤な後遺障害を残したり命に関わることもあります。最近では脳ドックなどで、破裂する前の“未破裂”脳動脈瘤が指摘されることも多くなっています。小さな未破裂脳動脈瘤の場合は破裂率が低いので、大きくなってこないかを定期的に画像検査で確認することが大切です。5mmを超える未破裂動脈瘤やいびつな形状の未破裂動脈瘤の場合は、治療を行うかどうかをご相談させていただく可能性が生じてきます。その場合の治療法としては内服薬では治療はできず、開頭クリッピング術やコイル塞栓術などの外科治療となります。現在では頭部を切らずに済む低侵襲な血管内治療(コイル塞栓術)が行われることが多くなってきています。
特に10mmを超える大型の脳動脈瘤では、年間の破裂率は4-5%前後にも及ぶと言われています。ただ、大型の脳動脈瘤は術来行われていたコイル塞栓術を行っても根治が難しく、再開通を認めることが多いことが過去のデータからは知られています。このような大型脳動脈瘤に対しての最新治療法がフローダイバーター治療になります。これは脳動脈瘤のある正常血管に網目の細かい特殊構造のステント(フローダイバーター)を留置する治療になります。守らなければならない正常血管の血液の流れはそのまま温存でき、脳動脈瘤内への血流のみが減少して動脈瘤内の血液がうっ滞し、血栓化して中身が詰まって血液が流れなくなってしまうことで破裂が予防できます。2015年から日本でフローダイバーター治療が可能となりましたが、高い治癒性と安全性から適応が拡大し、現在では条件を満たせば5mm以上の脳動脈瘤にまで使用可能となっています。
ただし、実際にフローダイバーター治療を行うかどうかは、既存の治療法も踏まえて、安全で確実な治療法を選択する必要があります。また、フローダイバーターを用いた治療には資格が必要で、限られた施設のみでしか施行できません。
長所
- 従来のコイル塞栓術だけでは治療困難であった大型動脈瘤の治療も行うことができます。
- 動脈瘤の中にコイルやカテーテルを挿入する必要はありませんので、術中の動脈瘤破裂のリスクは低くなります。
- これまでのコイル塞栓術と同様に開頭手術は必要ありませんので、傷は鼠径もしくは手首の穿刺部のみ(約2-3mm)となります。
短所
- 治療を行っても完全に動脈瘤が血栓化しない場合もあります。血栓化する率は1年間で約85%と言われています。
- 治療直後から血栓化するわけではないため、破裂動脈瘤(くも膜下出血を起こした直後)には使用できません。また、徐々に血栓化していくため、動脈瘤が完全に血栓化するまでは破裂する可能性が残存します。
- 金属量が多いステントを留置するために、ステント内が血栓で詰まらないように、血液をサラサラにする薬(抗血小板剤)を最低でも半年間は内服する必要があります。
治療可能な施設
この治療法は、留置方法や術後の管理がこれまでの血管内治療よりもやや複雑であることから、実施できる術者・施設が限定されています。当院はフローダイバーター実施施設に認定されており、京都府では5施設、京都市内では大学病院を除けば当院を含めた2施設のみです(2024年8月現在)。