感染症は病原体と宿主および環境の相互関係によって引き起こされる複雑な病態であり、感染症を正確に診断し適切に治療することは極めて重要です。近年、医療の高度化にともない、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、多剤耐性緑膿菌などの薬剤耐性菌による感染症が、病院内感染症として大きな社会問題になっています。また、新興感染症に備えた診療体制の構築も必要です。
感染制御とは
感染症学が感染症(infectious diseases)の「診断」と「治療」を目的とするのに対して、感染制御(infection control and prevention)とは病院施設内における感染症の発症を「予防」することが目的です。感染制御の使命とは、医師、看護師、薬剤師、技師、事務など多くの職種の職員がそれぞれに得意とする分野を分担し、責任をもって病院内の感染予防と職員の健康管理を行い、患者様に安心・安全な医療を提供することを目標とします。
院内感染対策チームの業務
感染制御の向上において最も重要な原動力は、情報の公開と社会の認知です。「院内感染をゼロにすることはできない。しかし、できる限り少なくすること、そのための努力を惜しまないこと」 感染制御部は、院内感染対策チーム(ICT:infection control team)を核として感染症診療に関する助言・指導を行い、院内では毎日のように多くの感染症が発症し、その発症状況を把握し、重要だと考えられる事例を重点的に、病棟への介入を行います。
組織図
活動内容
- サーベイランス(監視)業務
- 特定の感染症発生の確認、感染源や感染経路の把握
- 病院環境の汚染状況や多剤耐性菌保菌者の把握
- 病院疫学情報の把握
- 抗MRSA薬、広域抗菌薬など特定の抗菌薬の使用実態の把握
- 助言・指導業務
- 感染対策に対する助言および指導
- 感染対策マニュアル、ガイドラインの作成
- 院内における感染対策処置・予防処置の評価と指導
- 啓発・教育
- 病院内各部門との連携
- 他施設・地域医療との感染対策ネットワークの構築
- 患者や家族、地域住民などへの対応
- 新興感染症発生に備えた訓練、診療体制の構築
- 職業感染防止
予防接種の推進、職員の麻疹・水痘など感染症の既往歴および血清抗体価把握など - 病院内巡視
各部署の点検を行い、院内感染の観点から問題点の把握や改善指導を行う。 - 院内感染対策委員会への報告
活動内容について随時感染制御部と情報を共有し、さらに院内感染対策委員会に月次報告を行う。
ICT会議
- 週1回会議を行う(毎水曜日午後4時より)。
- 必要に応じて個別院内感染事例に関連する部署の職員やリンクナース等の参加を要請することが出来るものとする。
討議事項
- 週単位の耐性菌検出状況
- 多剤耐性菌、結核、インフルエンザなどの院内感染発生事例
- 連携カンファレンス、講習会等の準備とふりかえり
- 院内感染対策マニュアル、抗菌薬適正使用指針等の改訂
- その他、院内感染対策に関して機動的に対処すべき事案
ICTラウンド
- 定例ラウンド:
- 週1回(毎木曜日午前10時より) ICTリーダー、感染制御部専従看護師(ICTサブリ-ダ-)を中心に多職種で、全病棟と関連診療棟を訪問し、現場のサーベイランスならびに指導、介入を行います。
院内感染対策地域連携
- 地方独立行政法人京都市立病院機構 京都市立病院、独立行政法人国立病院機構 宇多野病院と連携し、相互訪問等を通じて院内感染対策の相互評価を行っています。
- 地域の病院、保健所と連携し、合同カンファレンス、新興感染症に備えた合同訓練、院内感染対策の個別相談対応等を通じて、地域の院内感染対策の質の向上にも努めています。
- 連携施設:
- 弘仁会大島病院、浩照会伏見桃山総合病院、淀さんせん会金井病院、医聖会学研都市病院、医聖会八幡中央病院
- 伏見区の診療所、伏見医師会と連携し、診療所外来での感染対策、抗菌薬適正使用に関して、合同カンファレンスおよび新興感染症に備えた訓練を行っています。
抗菌薬の適正使用に関する小委員会
2010年4月より下記目的で「抗菌薬の適正使用に関する小委員会」が設立されました(毎月第4水曜日に開催)。
- 抗菌薬使用状況の把握
- 特定抗菌薬(抗MRSA薬、カルバペネム系、広域セフェーム系など)の不適正使用事例への介入
- 抗菌薬の院内採用・廃止に関する審議
- 抗菌薬適正使用に関する講習会等、職員の学習機会の企画・運営
- 耐性菌検出状況、血液培養検査実施状況など微生物検査の月例報告
- その他、抗菌薬の適正使用に関し必要と認められる事項
この活動を「医療情報検索ソフトと電子カルテのICTアカウントを活用した抗菌薬適正使用の推進」と題して2013年度国立病院機構QC活動成果発表にて口演し、全国最優秀賞を受賞いたしました。
AST(抗菌薬適正使用支援)チ-ム
国立病院機構京都医療センターでは 2019年4月に抗菌薬適正使用支援チ-ム(AST:Antimicrobial Stewardship Team)を設置し 担当医に対してASTから機動的に抗菌薬処方の相談対応とアドバイスを行っています。
主な活動
- 血液培養陽性患者に対するカルテラウンドと相談対応・助言
- 集中治療室入室患者の感染症に関するカルテラウンドと相談対応・助言
- 特定抗菌薬使用状況の把握と適正使用への啓発・介入
- 特定抗菌薬のde-escalation実施の把握と必要時の相談対応・助言
- 院内外からのコンサルテ-ション
2022年度地域医療連携・広報活動
第1回感染対策向上 地域連携カンファレンス 2022年6月3日
「新興感染症に備えた個人防護具着脱訓練」
第2回感染対策向上 地域連携カンファレンス 2022年9月2日(ZOOMクラウドミーティングで実施)
ミニレクチャー「抗菌薬(メロペネムなど)欠品に対する対応」
感染対策に関する相互討論
第3回感染対策向上 地域連携カンファレンス 2022年12月2日(ZOOMクラウドミーティングで実施)
「COVID-19院内感染に備えた机上訓練の事前準備レクチャー」
第4回感染防対策向上 地域連携カンファレンス 2023年2月3日(ZOOMクラウドミーティングで実施)
「COVID-19患者発生に備えたオンライン机上訓練」
感染対策向上 地域連携相互評価
- 2022年11月7日
- 京都市立病院と宇多野病院が当院を訪問して評価
- 2022年12月5日
- 当院が宇多野病院を訪問して評価
連携医療機関訪問助言・指導
- 2022年4月25日
- 浩照会伏見桃山総合病院を訪問してラウンドおよびカンファレンス
- 2022年5月6日
- 医聖会学研都市病院を訪問してラウンドおよびカンファレンス
- 2023年1月16日
- 浩照会伏見桃山総合病院を訪問してラウンドおよびカンファレンス
外来感染対策向上 連携カンファレンス
- 2022年10月8日
- 「薬剤耐性(AMR: Antimicrobial Resistance)について」
「経口抗菌薬の使い方」 - 2023年1月28日
- 「診療所における新興感染症に備えたPPE着脱訓練」
2022年度ICT講習会、AST講習会
第1回院内感染対策講習会 2022年6月 YouTube配信またはDVD視聴
「京都医療センターICT こんなことを気にしています」
- ICT・AST活動と病院経営
- 環境ラウンドの着目点
- 血液培養コンタミを減らそう!
- COVID-19アップデート
第2回院内感染対策講習会 2022年11月 YouTube配信またはDVD視聴
(第1回抗菌薬適正使用教育セミナーを兼ねて)
- メロペネム欠品への対応
- 今さら訊けないメタロ-β-ラクタマーゼ
第2回抗菌薬適正使用教育セミナー 2023年2月 YouTube配信またはDVD視聴
「セファゾリンに強くなろう」
スタッフ紹介
令和5年度(2023年度) ICTメンバー
- 小田垣 孝雄
- 感染制御部長・総合診療科長、院内感染管理者、ICTリーダー(ICD)(専任)
- 畑 啓昭
- 感染制御副部長・外科診療科長(ICD)
- 陣内 牧子
- 総合内科医師(ICD)
- 宮川 英和
- 感染制御部専従看護師(CNIC)(専従)
- 保井 健太
- 薬剤師(専任)
- 塚原 優太
- 主任薬剤師
- 稲田 顕慶
- 薬剤師
- 山階 規子
- 薬剤師
- 吉川 耕平
- 主任臨床検査技師
- 小林 良平
- 経営企画室長
令和5年度(2023年度) ASTメンバー
- 小田垣 孝雄
- 感染制御部長・総合診療科長(ICD)(抗菌化学療法指導医)(専任)
- 畑 啓昭
- 感染制御副部長・外科診療科長(ICD)
- 陣内 牧子
- 総合内科医師(ICD)
- 佐治 雅史
- 救命救急科医師
- 藤田 浩平
- 呼吸器内科医長
- 金井 修
- 呼吸器内科医師
- 伊藤 高範
- 呼吸器内科医師
- 齋藤漸太郎
- 呼吸器内科医師
- 宮川 英和
- 感染制御部専従看護師(CNIC)(専任)
- 稲田 顕慶
- 薬剤師(専任)
- 塚原 優太
- 主任薬剤師
- 保井 健太
- 薬剤師
- 山階 規子
- 薬剤師
- 吉川 耕平
- 主任臨床検査技師(専従)
- 小林 良平
- 経営企画室長